パソコン選びの決め手は、見た目、使いやすさ、基本性能、ブランド、価格など千差万別だ。しかし、最近話題のネットブックは、基本仕様に大きな違いがなく、性能では優劣を付けにくい。A4ノートでも横並びの傾向が強くなり、格安のネットブックに引っ張られるように価格競争に陥っている。
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そこで各社が力を入れ始めているのがデザインだ。複数のカラーバリエーションを展開し、天板に柄を付けて他社との差異化を図るメーカーが増えている。デザインは見た目だけでなく、使いやすさにも直結する。そのため各社は知恵を絞る。こうした観点からデザインに目を向けてみると、パソコン選びの重要なポイントが見えてくる。東芝とNECにデザインについてこだわりを聞いた。
キーボード重視で企画をスタート
「全体の雰囲気を大切にした」――そう語るのは東芝のネットブック「dynabook UX」(関連記事)のデザインを手がけたデザインセンター情報機器 デザイン担当の二宮正人氏。dynabook UXは、昨年10月に発売した国内メーカー初のネットブック「NB100」(関連記事)に続く、同社の第2弾ネットブックだ。GfK Japan調べのランキングではネットブックとしては最高の6位に入っている人気機種である。
dynabook UXの企画がスタートしたのはNB100を投入する数カ月前。当時、NB100を含むネットブックは小型でキーボードが打ちにくいものが多かったことから、使いやすいキーボードを採用することを最初に決めた。「海外からキーボードを打ちやすくしてほしいという要望があった」(デザインセンター情報機器デザイン担当グループ長の島野健二氏)という。
利用頻度の高いアルファベットとナンバーキーのキーピッチをA4ノート並みの19mmに広げた。Tabキーなどは小さくなっているが、使いやすいキーレイアウトの開発に長い時間を割いたという。タッチパッドも面積を広くしてマウスボタンを下に配置するために、キーボードをディスプレイ側のヒンジ(ちょうつがい)の近くに配置するなど工夫した。
システム手帳に近い領域
「スタイリング的には、パソコンとして必要最低限の使用感をコンパクトなサイズに凝縮した。機能と使いやすさをオーガナイズしたシステム手帳に近い領域にある」(二宮氏)。エンジニアや海外向けに、デザイン案を説明する際のプラン名には「FOLIO」と名付けた。
斜線のテクスチャーを入れた天板は持ったときの手触りをやさしくして、高光沢のヒンジと落ち着いた色味のシルバーのキーボード面とのコントラストで質感の高さを表現した。持ち歩いて使うことを想定して、360度どこから見ても美しいように底面にもシルバーの塗装を施した。余分な突起がないようにも配慮している。
本体がコンパクトなネットブックは、詰め込むべき要素が少ない。ディスプレイやキーボードなどノートパソコンに必要なものだけが並ぶため、何をどう配置するのかバランスが重要になる。dynabook UXは、電源ボタンをヒンジの中央に配置してアクセントを付けた。キーボードは、本体に開いた穴からキートップが顔を出すタイプだ。アップルやソニーが採用しているもので、ネットブックにも採用機種が増えている。普通のキーボードより先進感があり、全体の雰囲気をスマートに見せてくる。
ただの白ではないプラスアルファが求められている
dynabook UXのカラーバリエーション案は8種類以上あった。実際に商品化したのはダーク系の「サテンブラウン」と白系の「スノーホワイト」の2色。どちらも天板には斜線のテクスチャーと、見る角度によって光り方が変わるパール塗装を施した。テクスチャー部分には塗装が施されていないため、光沢感とマット感を組み合わせた独特の表情が出ている。
同社は年に1、2回、グループインタビューを実施してデザインや機能などに関するユーザーの声を集めている。定点観測的に見ると、色一つとってもユーザーの受け止め方は変わってきているという。4年前は白いパソコンは「かわいい」「スペシャルな色」という意見が一般的だった。でも今は、特別な色という意識が薄まってきている。ただの白ではない、プラスアルファが求められるようになってきているのだ。dynabook UXはテクスチャーと光沢塗装の組み合わせでプラスアルファを提案している。
「デザインに関する要求が高まってきたのは、ここ2年くらいのこと。デザイン案で格好良くてコストがかかるものと、リーズナブルで見た目がスタンダードなものの2つの案があった場合、前者が積極的に採用されるようになってきた」(島野氏)
以前は、コストと性能のバランスをとって、割り切っていた部分があった。「今はデザイン面で先行するメーカーとの差が縮まってきている」と島野氏は自信を見せる。今後は利用シーンにフィットするデザインを提案しながら、ネットブックの縛りの中で何ができるかを模索していく。
NECはガラス粒子を混ぜた塗料で差異化
NECの主力A4ノート「LaVie L」のこだわりは、ガラスの粒子を混ぜ込んだ塗料を使った光沢塗装だ。パール塗装に比べると、キラキラと光る光沢感が強く、見る角度によってさまざまな光り方をする。
NECデザイン&プロモーションのデザイン事業本部第一プロダクトデザイン部エキスパートデザイナーの鳴澤道央氏によると、光沢塗装は6、7年前から採用しているという。その前はコストの壁があり、採用を見送っていた。だが、見た目の美しさやさわり心地の良さから携帯電話などで光沢塗装が一般的となり、パソコンでも採用することになった。光沢塗装は非光沢塗装よりも工程が増える分、手間が増える。その分、コスト増につながってしまうのが難点だ。
NECパーソナルプロダクツのPC事業本部商品企画開発本部商品企画部の藤中正次氏は、「デザインにお金をかけずに売れないよりは、投資して売れた方がメーカーとしては望ましい。商品力を高めないと生き残れない」と光沢塗装を採用した理由を説明した。
「光沢はトレンドの一つだが、横並びでは面白くない」(鳴澤氏)。塗料にガラスの粒子を混ぜて、ライバルメーカーの光沢塗装と違いを出した。満足のいく塗料を生み出すのには苦労した。キモはガラス粒子の混ぜ具合。入れすぎるとギラギラしすぎて下品になる。少なすぎると光り具合が足りなくなり立体感がなくなる。「一瞬、光が入ったときに少しキラキラしているのが理想」(鳴澤氏)。混ぜ具合は企業秘密だ。
LaVie Lには「スパークリングレッド」「スパークリングピンク」「スパークリングホワイト」「スパークリングブラック」「スパークリングブラウン」(NEC Directオリジナルカラー)の5色ある。レッドにはブラウンがかったガラス粒子、ピンクには赤色のガラス粒子など、カラーごとに最適な光沢を出すために色の違うガラス粒子を混ぜた。1色を調色するのに朝になることもあったという。
キープではなくいい方向に変えていく
NECでは企画担当がデザイナーに新モデルのコンセプトや盛り込んでほしい要素などを伝える。LaVie Lの場合、企画の藤中氏からデザイナーの鳴澤氏への要望の一つが「薄く見せたい」だった。
同社は満足度調査からユーザーの不満点や好みの傾向を数値化している。その中にはデザインの項目もある。「前々回のモデルで『厚く見える』『マット調の塗装は汚れが落ちにくそう』という意見があった。今回のLaVie Lではこれらの不満点の改善を目指した」(藤中氏)
薄く見せるために、本体の手前をそぎ落とし、側面にコントラストの高いブラウンやシルバーのラインを入れた。これによって側面を見えにくくして、厚さを意識させないようにしているのだ。カラーも、スパークリングレッドなら赤と黒、スパークリングピンクならピンクとシルバーの2色を使って間のびした雰囲気を与えないように工夫した。
「ノートパソコンに限らず、キーは何かを考えて作業に入る。中身から出てくる物をしっかり形にするのがデザイナーの仕事。LaVie Lなら、フルHDやBlu-ray Disc(BD)ドライブを採用したのだから、映像の美しさがキーになる。これをデザインで表現した」(鳴澤氏)。デザイン案は10点以上あった。ガラス粒子を混ぜた塗装も映像の美しさを表現するのに一役買っている。
「堅実、安心など、良くも悪くもNECのイメージがある。定番機種のLaVie Lでは、これらのイメージを伸ばすことを優先した。新規性能高いデザインもアイデアレベルではあったが、ミーティングを重ねることで外されていく」(鳴澤氏)。大きな変化は見た目のインパクトを与えられるが、ユーザーが離れてしまうリスクもある。新しいことにチャレンジしにくいのは定番機種であるが故の宿命だ。
LaVie Lではできない、オレンジや淡いピンクのカラーリングなどは、「LaVie N」などで積極的に取り込んでいる。機能面でも本体前面に携帯電話のように時計やアニメーションを表示できるLEDを組み込むなど新しい使い方を提案した。
「私が入社した当時は、今より“中”が優先で、技術や開発側の意見が強かった」という鳴澤氏。最近では、思い切ったヒンジを採用したり、LCD側が極端に薄かったりするモデルが増えて、スタンダードなA4ノートであっても画一的ではなくなってきている。
「パソコンの市場の中で、デザインのプライオリティーが高まってきているのは実感している。個人的な意見だが、LaVie Lについてもいろいろ変えていかなくてはならないと考えている。キープするのではなくいい方向に変えていきたい」(鳴澤氏)
デザインに目を向けると、メーカーが何を重視してパソコンを作っているかが見えてくる。裏を返せば、パソコンを購入するときは製品のメーカーが力を入れているポイントを比較しながら選べばよい。例えばネットブックなら、コンパクトにして携帯性を高めながら、高い操作性を実現するのが課題だ。操作性と高いデザイン性の両立は各社共通の課題。店頭で操作感を試しながら、好きなデザインの製品を選べばよいということ。定番のA4ノートでは、NECのようなガラス粒子を混ぜ込んだ光沢塗装など、高級感の演出がデザインのトレンド。ネットブック同様操作性とのバランスが各社の競争のカギとなっている。
(文/三浦善弘=日経トレンディネット)


